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魂の落書き 〜おでんまちのひ 店主の日記〜

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小屋番三六五日 山と渓谷社

世の中がどんなにくさりきってしまっても、本屋にいけば最高の友達に出逢えます。

こんにちは。今週も「道下森の本棚」の時間がやってきました(^O^)/

さて、今日紹介する本は、これ。

小屋番三六五日 (山溪叢書)

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山と渓谷社「小屋番三六五日」だ。

この本は、雑誌「山と渓谷」2001年5月号から2006年3月号にわたって長期連載された、全国の山小屋の小屋番(主人、管理人、アルバイトたち)55人によるリレーエッセイをまとめたものだ。山を住処とし、山を仕事場とする、小屋番たちからの便りである。


まずはこの本に掲載された小屋の一覧から。

・涸沢ヒュッテ
・原の小屋
・丸川荘
・穂高岳山荘
・阿曾原温泉小屋
・鍋割山荘
・北横岳ヒュッテ
・越百小屋
・佐藤小屋
・蓼科山頂小屋
・船窪小屋
・キレット小屋
・大天井ヒュッテ
・北穂高小屋
・槍ヶ岳山荘
・赤岳鉱泉
・霊夢庵
・黒百合ヒュッテ
・赤岳天望荘
・白馬山荘
・コロボックル・ヒュッテ
・愛鷹山荘
・駒の小屋
・いこいの山岳会
・ロッジ山旅
・銅山峰ヒュッテ
・空木駒峰ヒュッテ
・雲取山荘
・朝日小屋
・くろがね小屋
・大日平山荘
・広河原山荘
・谷川岳肩ノ小屋
・燕山荘
・青年小屋
・金峰山小屋
・高谷池ヒュッテ
・仙人温泉小屋
・餓鬼岳小屋
・法華院温泉山荘
・真砂沢ロッジ
・塩見小屋
・両俣小屋
・徳本峠小屋
・前鬼宿坊・小仲坊
・天狗平山荘
・朝日鉱泉ナチュラリストの家
・夜叉神峠小屋
・三ツ峠山荘
・青ヶ岳山荘
・光岳小屋
・月山頂上小屋
・東海大学銀嶺荘
・日向小屋
・尊仏山荘


……とまあ、ざっとこれだけの小屋の話がつまっている。

どの小屋の話も、単なる小屋の紹介ではない。それぞれの小屋で働く小屋番たちの生の声がつづられている。どれもぼくら山好きの人間にとって貴重な話ばかりだ。

マジでいい本だ。

1話ずつ、かみしめるように読んだ。

どの小屋番の話も、下手な小説家が書くエッセイなんかより迫力があった。「へえ、小屋の仕事って楽しそうだなあ」などといったのんきな感想は出てこない。なぜなら、小屋の仕事というのは、小屋番にとって人生そのものだからだ。

もちろん、どんな仕事でも、その仕事に就く人にとっては人生そのものだ。だが誤解をおそれずにいうなら、山小屋の小屋番というのは、下界の人間の持つ職業観とは次元がちがう。かけるものの大きさがちがうのだ。捨てるものの大きさがちがう、といいかえてもいい。

何しろシーズン中はずっと山の上の小屋につめるのだから、1年のうち半分は下界から離れることになる。それだけで、多くのものを犠牲にしているのがわかるだろう。仕事だって、はたから見る以上の激務だ。サービス業としての小屋仕事だけでなく、そこの山、あるいは山域のすべてを守るという責務も負わなくてはならないのだ。だからやる以上は、自分の人生のすべてをその山にささげるくらいの思い入れがないとつとまらない。

たとえば、北アルプス朝日岳の「朝日小屋」の小屋番 清水ゆかりさんの話にこんなくだりがある。

 私が高校生になった1973年夏、父が朝日小屋の管理人を引き受けた。以来、高校、大学の7年間は夏休みの間中、小屋の仕事を手伝う。小屋の仕事が楽しかったというよりも、同世代のアルバイトのみんなとの出会いがなによりの財産だった。
―中略
 その朝日岳を守り、二十八年にわたって「朝日小屋の管理人」であり続けた父が、2000年6月、シーズンの小屋開けの日に他界。ヘリコプターでの荷揚げが無事終わったことを確認し安堵して、朝日岳よりもっともっと高い場所へと上っていくように……。父とふたりきりの最期の病室で聞いた、「うーっ、うーっ」という声にならない声が、ゆかり頼んだぞ、朝日小屋を頼んだぞ」と言っていたように思えて今も忘れられない。
 その直後、管理人を引き継ぐかどうかの決断に迫られた。家族の生活は、自分の仕事はどうするのか、そしてなにより女性である自分は、登山道の整備や遭難救助活動をどうするのか。中途半端な決意ではできないことをいやというほど知っているだけに、夜も眠れないくらいに悩んだ。そして、「自分ひとりでやるんじゃない、たくさんの人たちに支えられて初めて成り立つ仕事だ」と気づいた末に出した結論は、「私が継ぐ、私が継いでいきたい」という答えだった。



覚悟の大きさが、読んでいてひしひしと伝わってくる。そして覚悟を決めて選んだ「小屋番」としての人生だからこそ、きつい仕事の中に、大きな喜びがある。ここでは割愛するが、清水さんの話のつづきを読んで、ほろりときてしまった。

朝日小屋の話だけでない。この本に書かれた55の小屋番の話のすべてが、人生を考えさせられる話だ。誰もが真剣に考えた末に小屋番という職業を選び、その仕事に誇りを持って生きている。

それは、下界で生ぬるい生き方をしているぼくにとって、ちょっぴりうらやましい人生だ。

以前もこのブログに書いたが、ぼくも1シーズンだけ小屋番のアルバイトの経験がある。いろんな意味できつい仕事だったが、振り返ってみると喜びや感動も多かった。

シーズンが終わり、下界に下りるとき、「来年もやらないか」と打診された。ぼくはことわった。もうたくさん、というのが正直な気持ちだったのだ。その会社は、山域に10以上の山小屋を持っていて、何年かしたらそのうちのどこかの管理人になる道もあったと思うが、ぼくにはその覚悟はできなかった。

だからこそ、この「小屋番三六五日」に出てくるすべての小屋番たちを、ぼくは尊敬する。同時に、自分もかれらのように、自分で選んだ人生に責任を持って生きようと思う。

かれら小屋番たちほどでないにしろ、ぼくだって決して少なくないものを捨てて、今の人生を選んだのだから。


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