仕事を終えて帰宅し、夕方、散歩に出かけた。

桜が見事な花びらを見せていた。
桜並木に囲まれて、ぼくは歩いた。ああ、今年もまた、桜の季節を迎えたのか、早いものだ……
桜を見ると、決まって思い出すのは、父が死んだ日のことだ。
父が肝硬変で亡くなったのも、ちょうど桜が咲く頃だった。3月の終わりだったから、その年は早くに開花したのだろう。
いや、咲いてなかったでしょ……
そう母は主張する。弟も、咲いてなかった、と断言する。だとしたら、ぼくの記憶ちがいだろうか……
通夜の日も含めて、父の死後1週間は本当にあわただしく、3人とも心身ともにこれ以上ないほどにすり切れていた。だから、記憶が前後したとしても、何の不思議はない。
もしかしたら、咲いていなかったか……。
どちらにしろ、ぼくは桜を見るたび、父の死を思い出す。目を見張るほどの桜の花とともに、父は天国へと旅立った……、そんなイメージがぼくにはある。
だから命日ではなく、ぼくは桜の満開を迎えたとき、父に思いをはせる。「桜の頃」が、ぼくにとっての父の命日なのだ。
だから今日、桜並木を歩きながら、ぼくは父に語りかけた。
父さん……、そちらはどうですか?
こっちはぼちぼちさ。俺はあいかわらず駄目な男のままだけど、おかげさまで身体だけは元気でいるよ。
母さんのことなら、心配いらないよ。若い頃に迷惑をかけた分、孝行するつもりだから。
あとはそうだね、俺がしっかりとした大人になることだね。いろいろ考えてるから。ちょっとやりたいことがあるんだ。大丈夫だって。自信はあるからさ。
気長に期待しててよ。俺はやるときゃやりますよ、ホントに。
嫁さん? そっちの方はちょっと……。こればっかりは縁だからさ。まあ、仕方ないや。
まあ、ぼちぼちがんばるよ。
あっ、そうそう、今年も桜は見事だよ。

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桜を見ると、決まって思い出すのは、父が死んだ日のことだ。
父が肝硬変で亡くなったのも、ちょうど桜が咲く頃だった。3月の終わりだったから、その年は早くに開花したのだろう。
いや、咲いてなかったでしょ……
そう母は主張する。弟も、咲いてなかった、と断言する。だとしたら、ぼくの記憶ちがいだろうか……
通夜の日も含めて、父の死後1週間は本当にあわただしく、3人とも心身ともにこれ以上ないほどにすり切れていた。だから、記憶が前後したとしても、何の不思議はない。
もしかしたら、咲いていなかったか……。
どちらにしろ、ぼくは桜を見るたび、父の死を思い出す。目を見張るほどの桜の花とともに、父は天国へと旅立った……、そんなイメージがぼくにはある。
だから命日ではなく、ぼくは桜の満開を迎えたとき、父に思いをはせる。「桜の頃」が、ぼくにとっての父の命日なのだ。
だから今日、桜並木を歩きながら、ぼくは父に語りかけた。
父さん……、そちらはどうですか?
こっちはぼちぼちさ。俺はあいかわらず駄目な男のままだけど、おかげさまで身体だけは元気でいるよ。
母さんのことなら、心配いらないよ。若い頃に迷惑をかけた分、孝行するつもりだから。
あとはそうだね、俺がしっかりとした大人になることだね。いろいろ考えてるから。ちょっとやりたいことがあるんだ。大丈夫だって。自信はあるからさ。
気長に期待しててよ。俺はやるときゃやりますよ、ホントに。
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