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魂の落書き 〜おでんまちのひ 店主の日記〜

魂の落書き 〜おでんまちのひ 店主の日記〜

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友よ

先日の定休日、午前中に映画を観た後、京成線の列車に乗って堀切菖蒲園に向かった。昭和の面影が残るやや寂しげなその駅に降りると、平和通りを小岩方面に向かって歩いた。先に腹ごしらえをしておこうと思ったが、適した店が見当たらなかった。仕方なく、ぼくは目的地に向けて歩きつづけた。雲ひとつない冬の空。馬鹿みたいに晴れわたったその空が、むしょうに悲しく見えた。

まだ半分は信じられない気持ちを抱えたまま、目的地についた。入り口ドア付近に立つスタッフに声をかけ、案内をしてもらう。数分前に連絡を入れていたので、すぐに理解してもらえた。

「では、どうぞ。ゆっくり話されてください」

終わりましたら声をかけてください、といい、スタッフはその場を辞した。

ぼくと友の2人がその場に残った。何の音もない、何の匂いもしない、無機質な空間。ぼくはしばらく立ちつくした。目を細めて、友の顔に近づいた。グレーの髪には寝ぐせがあり、カサカサの顔には無精ひけがのびている。死化粧は、出棺の直前にするのだろう。

中学のときの同級生だ。本当に仲がよくて、いつも一緒に馬鹿騒ぎしては、授業を破壊していた。高校はべつべつだったが、卒業後も、しょっちゅうつるんで遊んだ。その友の家は仲間うちのたまり場になっていて、おじゃましま〜す、と言って階段を駆け上がると、おう、とうれしそうな顔で迎えてくれた。手土産に買ってきたスナック菓子をぱくつきながら、ただだべったり、当時流行っていたファミコンをしたりしてすごした。スーパーマリオブラザーズとか、初期のファミスタとか。対戦すると、どのゲームも持ち主である友の方が圧倒的に強くて、その勝ち方のずる賢さや、ぼくの負けっぷりのみじめさを、互いにげらげら笑ったものだった。

べつの友人から連絡が入り、そこに向かうときは、たいていぼくの自転車で「2ケツ」した。ぼくらが住んでいた町はやたらと起伏が多く、どの友達の家にいくにも必ず急な坂を一つ二つ越えるのだった。上り坂は根性で、下り坂は気合いで、2ケツのまま越えていく。ものすごいスピードで坂道を走り下り、そのままブレーキをかけずにカーブを曲がっていくと、荷台に座る友が、ハングオン切るな馬鹿あっ、と叫んだものだった。

高校を卒業し、大人になると、会わない時間が増えていく。それは仕方ないことだ。ぼくは町を離れたし、当然、仕事はべつべつだし、いろいろと忙しくなる。地元の仲間でつくった草サッカーの試合で、月に一度は会っていたが、それも大勢の中でのことで、個人的なつきあいはほとんどなくなった。仲違いしたとか、そんなことではなく、自然とそうなったのだ。

ただしいていえば、ぼくの方が少しだけ、かれをさけた面はあった。酒ぐせが異常にわるかったのだ。酔うと誰彼かまわずからみはじめ、乱闘にいたった。それがいやで、忙しさを理由に誘いにのらなくなった。

その酒がたたって身体を壊した。肝臓に癌が見つかったのだ。2年前のことで、その時点でかなり進行していたのだと、共通の友人に伝えられていた。その友人が先日、奥さんと一緒にぼくの店にきて、もう長くないかもといっていた。だから覚悟はできていたのだが、実際に訃報を伝えられると、身体から力が抜けるほどショックだった。

家族の意向で通夜も葬儀もおこなわず、亡くなった日から約10日後の土曜に、自宅から出棺するという。ぼくは店があるから、そこにはいけない。本当はそこにいって、おそらく大勢くるだろう昔の仲間と一緒に、かれを送ってやりたかった。だがそのために店を休むわけにはいかないし、友もそれを望んではいないだろう。だから自分の休みの日に、こうして安置所にやってきて、お別れをいいにきたのだ。

幸せだったかい。

もう1ミリも表情を動かすことのない友に向けて問いかけた。かれはずっと独り身で、一見、寂しい人生のようにも思えるけど、それでも楽しいことや嬉しいことは山ほどあったはずだと、ぼくは信じている。

だけど、それでもやっぱり短ずぎる人生だ。

生きていると、こんなふうにして友を見送ることが増えていく。1年前にも、同級生が亡くなった。そのたび人生について考えさせられる。

自分の人生はあとどれだけつづくのだろう。もういいや。いつ死んでもかまわない。そんなふうにいう人もいるけど、ぼくはもっと生きたい。この人生が、この毎日が、ものすごく愛おしい。家族を愛しているし、友達を愛しているし、自分の仕事を、この店を、そこにきてくれるみんなを愛している。自分の人生を、心から愛しているのだ。だからこのままずっと生きて、この人生を、この毎日を、いつまでも味わっていたい。

斎場を辞した。

馬鹿みたいに晴れわたった冬の空に、ヒコーキ雲がのびていた。ぼくは目を細め、その空を見つめた。友に向けて、大好きな映画の台詞を口にする。

必死に生きるか。必死に死ぬか。

おれは生きるよ。

そっちにいくのは、まだ当分、先になる。そのときまで、見守っててくれな。


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