fc2ブログ
魂の落書き 〜おでんまちのひ 店主の日記〜

魂の落書き 〜おでんまちのひ 店主の日記〜

旅について 遊びについて 夢について 人生観について 本について 愛用品について ありったけの思いを語ります

 

たったひとりのリーゼンスラローム大会 前編

長野県白馬村の八方尾根スキー場で、毎年、リーゼンスラローム大会という草レースが開催される。2500mの長距離コースを滑り降りるGSレースだ。今年で78回、一度も休むことなくつづけている歴史ある大会らしい。

今年の開催日は2月21日(水)と22日(木)の2日間で、ともに午前中におこなわれる。レースは年齢別になっていて、下は20代以下クラスから、上は80代以上クラスまであった。初日が60代から上のクラス、2日目が50代から下のクラスのレースというプログラムだ。

その大会を知ったのは去年の10月、スキーをはじめて3度目のシーズンに入る直前だった。今シーズンは自分の板でスキーをしようと思い、インターネットであれこれ調べていると、その大会の情報が飛びこんできたのだ。

身の程知らずだとは思ったが、ちょっと出てみようかという気になった。ボロ負けしたっていいじゃないかと思う一方で、ワンチャン(one chanceの略)いけるんじゃねえかという、いつもながらの根拠のない自信もあった。

レースに出る!

そのアイデアにぼくは奮い立った。酔いしれたといってもいい。大会に出る。レースに出る! それだけで、自分が特別な存在にでもなったかのような気分だった。

ずっと何かに挑戦しつづけたいと思って生きてきた。魂にガツンとくるような、心がヒリヒリするような、そんな何かにチャレンジしたい。失敗すれば痛い目を見るかもしれないけど、それでもそこを乗り越えれば必ず新しい風景に出会える。今までずっとそうだったし、これからも新しい風景を見るために、何かに挑戦しつづけたい、そう思っている。

年齢なんて関係ない。たとえばぼくが最も尊敬するアスリートであるカズさん(三浦和良)は、ぼくより2学年上だけど、いまだ現役をつづけている。それどころか、ポルトガルの2部リーグの選手としてプレーしているのだ。もちろん往年の身体のキレはなく、現役をつづけていることに賛否はある。それでも57歳でプロのピッチに立てること、しかも2部とはいえ、ポルトガルという遠い異国のリーグでプレーしていることに、ただただ尊敬してしまう。同時に、ぼくも負けていられないと思うのだ。

もちろんぼくはプロのアスリートではなく、小さなおでん屋の店主、つまりはただの庶民だから、カズさんみたいにオファーがあれば世界中どこのチームでもやるといった生き方はできない。仮にどこか異国のレストランから、うちで働かないかという話があったとしても、店や家族を捨ててそこにいくという道は選ばない。ぼくはぼくなりの、庶民は庶民なりのやり方で、何かにチャレンジするしかない。

人生はゲームだというのが、ぼくの考えだ。与えられた持ち駒で、いいかえれば自分が置かれている制約の中で、せいいっぱいの経験を重ねていく、そんなゲームだ。だからぼくが何かにチャレンジするとしたら、店をとおして何かをやるか、週に2日の休みの中で何かにチャレンジするか、どちらかしかない。それがぼくにとってのゲームの制約であり、持ち駒だ。

2年前にスキーをはじめた。それもチャレンジだった。スキーのおかげで、明らかに人生が濃密になった。ゲームのレベルが、一つ上がった感じだ。そのスキーも2シーズンかよいつめて、かなり腕を磨いたつもりだ。ここらでもう一段高いレベルでやってみたい。それがこのリーゼンスラローム大会なのではないか。レースに出ることで、さらに人生というゲームがおもしろくなるのではないか。

迷ったら進む。それがぼくの信条だ。

ぼくはエントリーを決めた。

妻にはいちおう相談した。といっても事後報告みたいなものだったが、彼女は全面的に賛成してくれた。2年前にスキーをやりたいといったときも、すぐに賛成してくれた。以来、ぼくがどんどんスキーにハマりこんでいく様子を楽しんでいる。ちなみにぼくがやることすべてに文句をいわないわけではなく、たとえばバイクに乗りたいといったときは反対された。危ないというのが理由だった。

エントリーを決めてから、仲のいい友人と酒を飲む機会があり、そこでスキーの大会に出ることを告げた。驚かれたが、すぐに応援するよといってくれた。その友人は同い年で、年齢を気にしないぼくのチャレンジをとても喜び、たたえてくれた。ぼくもなんだか誇らしい気持ちになった。

店のお客さんにも報告した。反応はさまざまだったが、否定的な意見はなかった。大会の開催日が水曜と木曜だから、休みをずらすことになる。その件に関しても、たまにはいいよといってくれた。

というわけで、賽は投げられた。あとは大会に向けて準備を進めるだけだ。

大会の開催場所が長野県の白馬で、大会当日の受付開始が朝の7時だから、前日には現地にいなくてはならない。そのための宿も確保する必要があった。現地までの新幹線やバスも予約しなくてはならない。だがそれはいつでもできる。肝心なのは、レースに向けて技術を磨くことだ。

11月、長野県の軽井沢プリンスホテルスキー場のオープンを皮切りに、シーズンがはじまった。ここは人工雪のスキー場で、11月初旬にオープンする。他のスキー場がまだオープン前だから、上級者を中心に平日でも混み合う。かれらにまじってすべりはじめると、肩慣らしのつもりがついつい熱が入ってしまう。

11月に下旬には、新潟県湯沢町のかぐらスキー場がオープンした。ここは標高が高い場所にあり、11月下旬から5月中旬まで長期間オープンしている神様のような存在だ。ゲレンデの難易度も高く、集まるスキーヤーもベテランの方が多くて、全体的にレベルが高い。好きなスキー場の一つだ。

12月いっぱいはかぐらスキー場にかよいつめ、GS競技のスピードを意識して練習した。とりあえず2月の大会までは楽しむためのスキーはお預けだ。自分はアスリートなんだといい聞かせ、ストイックにスキーをした。頂上付近からの急斜面のコースをかっ飛んですべり降り、休むことなくリフトに乗る。リフトに乗る間に息を整え、頂上につくと、躊躇なくまたすべり降りる。これを何十回もくり返していく。

週がかわれば、ゲレンデの雪質もかわる。軽いときもあれば、湿り気を含んで重たいときもある。しっかりと圧雪されておもしろいようにスピードが出るときもある。アイスバーンになってガリガリすることもある。好き嫌いや得手不得手はもちろんあるが、そんなことはいってられない。本番でどの雪質になるかわからないのだ。どんな状況でもかわらずすべれるよう、とにかく数をこなしていくしかない。

年末には、他のスキー場も続々とオープンした。石打丸山スキー場、ガーラ湯沢スキー場、舞子スノーリゾート、上越国際スキー場。毎週、場所をかえながら、練習に明け暮れた。とにかく速くなりたかった。上位を狙うわけではないけど、無様な結果にはなりたくなかった。それには練習しかない。ランチはおろか休憩もなし。5時間ぶっとおしで練習した。

おいおい、おまえ歳を考えろよ、という声が聞こえてくる。高校生の部活じゃないんだぞ。それに明日は朝から仕事じゃないか。くたくたな身体で18時間労働に耐えられるのか……

そんな声をぼくは無視した。30年40年やっているベテランスキーヤーを相手にレースするのだ。並大抵の練習では太刀打ちできない。

それにカズさんはもっとやってるぞ、と思う。ぼくより年長のカズさんは、もっともっと自分を追いこんでやってるじゃないか。20代、30代のプレーヤーにまじって。激しいアタリにも負けずに。しかも勝手のちがう異国の地で。

帰宅後は、すぐに風呂に入って、入念にストレッチをする。好きな酒も控え、翌日からの仕事に備えて早めに寝る。どんなに疲れていても、ぼくは「庶民」なのだから、仕事に支障があってはならないのだ。それがぼくの制約であり、人生のゲームにおける持ち駒だ。

1月半ばには、開催場所である白馬八方尾根スキー場に出向き、実際にレースのコースをすべった。かなりの急斜面で、そして長い。ゴールする頃には、かなり足腰にくる。マジかと思う。こいつはきついぞと弱気になる。だけどやるしかなかった。はじめての白馬で、広いゲレンデを楽しみたい思いもあったが、ぼくはレースのコースであるリーゼンスラロームコースだけを1日かけてすべりこんだ。

大会当日が近づくにつれ、落ちつかなくなってきた。上位を狙うわけじゃないし、出場することに意味があるだけだから、緊張なんてしないと思っていた。だけどやっぱり緊張してきた。何しろレースなんてはじめてだから、何がどうおこなわれるかわからないのだ。得体の知れない不安と、抑えられないたかぶりとが、常につきまとった。

大会の一週間前、自宅にゼッケンが届いた。390がぼくのゼッケンナンバーだった。本当にレースに出るんだと、改めて思い知らされた。もう逃げられない。とにかくやるしかないのだ。

それからの1週間は仕事に没頭した。頭の中から、レースのことを消したかったのだ。だけどやっぱり無理で、仕事中もレースのことばかり考えてしまうのだった。

すべてはその日がくれば決着するのだ。レースが終われば、必ず結果が出る。それがいい結果だろうがボロ負けだろうが、とにかく何かしらのケリがつくのだ。来年もまた出たいと思うか、もうレースはこりごりと思うか、どっちに転んでも、人生というゲームに新しい何かが加わる。

そして。

ついにその日がきた。



後編につづきます



  
スポンサーサイト



 
<- 03 2024 ->
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
プロフィール
201104241236000_convert_20120212162112.jpg
検索フォーム
姉妹ブログ「お父さんとの旅」
WEB小説「お父さんとの旅」週1~2回のペースで連載してます。
001_convert_20121102183528.jpg
北海道カヌーの旅
2001年秋~冬、北海道の川をゴムカヌーで下った、3カ月の旅の軌跡  大好評連載中    ↓
ブロとも申請フォーム
ツイッター フォローしてね
今日もつぶやいてます。ぜひフォローをお願いします。


Archive RSS Login