一瞬の風になれ 佐藤多佳子
世の中がどんなにくさりきってしまっても、本屋にいけば最高の友達に出逢えます。
こんにちは。今週も「道下森の本棚」の時間がやってきました。
※一日遅れでごめんなさいm(__)m また、今日掲載予定の「北海道カヌーの旅18日目」も明日にずれこみます。ごめんなさいm(__)m
さて、今週紹介するのは、これだ。

佐藤多佳子著「一瞬の風になれ」(全3巻)だ。
この本は、2007年の本屋大賞を受賞した本、つまり、その年、全国の書店員が一番売りたいと思った本だ。
その称号どおり、文句なしにおもしろい。
いわゆるスポーツ小説で、とある公立高校の陸上部が物語の舞台となっている。
陸上かあ…… と自分があまり興味がないスポーツということで、読みはじめはあまり期待していなかった。まあ本屋大賞だからつまらなくはないだろ、って感じに読みはじめた。
しかし、読みはじめてすぐに、その気持ちは一変した。冒頭からもう完全に物語に引きこまれた。
ちなみに冒頭はこんな感じ。
次の日曜日はクラブの遠征試合で駒沢公園まで行くから、「トーキョーに行くぞ!」とメールで打ったら、「だるい距離だな」と連から返事がきた。だいたい、あいつは約束とか待ち合わせを異常に面倒臭がるから、来たけりゃぶらっとグラウンドに現れるだろうと思って、地図だけFAXしておいた。
よく晴れた日だった。神奈川も東京も風はキンモクセイの濃い匂いがしている。大会とかじゃない気楽な練習試合で、駒沢ミラクルボーイズはわりと弱っちいチームなんだけど、やっぱりグラウンドに着くといつものように下腹がゴロゴロと鳴った。試合前の緊張はわるいことじゃないさと健ちゃんはいう。けど、U16日本代表候補だった兄貴が緊張をほぐすためにクリスタル・ケイを聴くのと、相模原サルトFCの俺が試合会場のトイレを三往復するのとはわけがちがう。まあ、ゲームがはじまれば腹は落ちつくけど、プレーのほうはそうはいかない。
試合は最低だった。FWの俺はとにかくフルに走りまわって、DFを引きつけたり裏に抜けたりチャンスメイクに励んだんだけど、トラップもパスもへぼいもんで、相方の矢代が決めれるようなボールは出せない。シュートチャンスも三回あった。絶好の二回は天高くフカして、一回はキーパーの正面。ゲームは1―1のドロー。ウチの得点は矢代のPKだった。
最低。いつも通りだ。
試合終了と同時に、クソきれいな青空を茫然と見上げたら、「シンジーッ」と高い声がした。
連が来てる。
どう? 引きこまれねえ?
ぼくは引きこまれた。そして全3巻を2日で読み終えた。
……で、何だかすげえ、陸上がやりたくなった。今度生まれたら、ってあんまり好きな表現じゃないけど、陸上部に入りてえってマジで思った。
……っていうか、やっとけばよかったあああっ(>_<) って思った。
いや、じつは高校のとき、もしかしたら陸上部に入っていたかもしれないのだ。そんなちょっとしたきっかけがあった。そのことを、物語のある場面を読んで思い出した。
物語のはじめの方の、主人公のシンジが町で陸上部の顧問の三輪先生にばったり会うシーンだ。以下は、そのときの会話だ。
「おまえ、知ってるか?」
三輪先生は足を止めて、俺の顔を眺めた。
「下半身に強烈なバネがあって、球技が苦手なタイプは、スピード競技で大成するんだ。スプリントの王者になれるかもしれねえぞ。おまえがどの程度のサッカー選手だったのか、俺は知らんが……」
「ヘタクソです」
この先生の一言が後々までシンジにとってお守りのような言葉になるのだが、この場面を読んだとき、ぼくは一瞬だけ高校時代にタイムトリップした。じつはこれと同じようなことを、ぼくも高校のとき陸上部の顧問だった先生にいわれたことがあったのだ。
マジだ。
いい方はちょっとちがうけど(運動神経がいいのに球技が苦手なやつは陸上でのびる、みたいな感じだった)、マジでいわれた。1年のときの体育時間に。
で、陸上部に勧誘されたのだが、ぼくはことわった。高校に入ったら、部活には入らず、何かべつのことをしたかったのだ。で、友人の誘いで波乗りをはじめた。すげえおもしろかったし、後悔はしていないが、だけどこの「一瞬の風になれ」を読んで、ちょっとだけ高校で部活をやってみたかったな、と思った。
そんなふうに感じた本だった。
まあ、それだけじゃなく、あらゆる面でおもしろい本だから、みなさんも、ぜひ読んでみてほしい。陸上に興味あってもなくても、絶対におもしろいし、逆に陸上やってた人が読んでも納得できるくらいリアリティーもあるし。
マジでおすすめです。

道下森の本棚 過去ログ
刑務所のリタヘイワース スティーブン・キング
オリジナルワンな生き方 ヒュー・マクラウド
スローカーブを、もう一球 山際淳司
リッツカールトンで育まれたホスピタリティノート 高野登
船に乗れ 藤谷治
ルリユールおじさん いせひでこ
超訳ニーチェの言葉
白銀ジャック 東野圭吾
神さまはハーレーに乗って ジョン・ブレイディ
気まぐれロボット 星新一
BRUTUS 2011 2/1号
男の作法
天国はまだ遠く 瀬尾まいこ
最後の授業 アルフォンス・ドーテ
モーラとわたし おーなり由子
老人と海 アーネスト・ヘミングウェイ
傷だらけの店長~それでもやらねばならない~ 伊達雅彦
Sports Graphic Number「スポーツグラフィック ナンバー」 3/24 ルーキー秘話
奇跡は路上に落ちている 軌保博光
小屋番三六五日 O型自分の説明書 Jamais Jamais
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佐藤多佳子著「一瞬の風になれ」(全3巻)だ。
この本は、2007年の本屋大賞を受賞した本、つまり、その年、全国の書店員が一番売りたいと思った本だ。
その称号どおり、文句なしにおもしろい。
いわゆるスポーツ小説で、とある公立高校の陸上部が物語の舞台となっている。
陸上かあ…… と自分があまり興味がないスポーツということで、読みはじめはあまり期待していなかった。まあ本屋大賞だからつまらなくはないだろ、って感じに読みはじめた。
しかし、読みはじめてすぐに、その気持ちは一変した。冒頭からもう完全に物語に引きこまれた。
ちなみに冒頭はこんな感じ。
次の日曜日はクラブの遠征試合で駒沢公園まで行くから、「トーキョーに行くぞ!」とメールで打ったら、「だるい距離だな」と連から返事がきた。だいたい、あいつは約束とか待ち合わせを異常に面倒臭がるから、来たけりゃぶらっとグラウンドに現れるだろうと思って、地図だけFAXしておいた。
よく晴れた日だった。神奈川も東京も風はキンモクセイの濃い匂いがしている。大会とかじゃない気楽な練習試合で、駒沢ミラクルボーイズはわりと弱っちいチームなんだけど、やっぱりグラウンドに着くといつものように下腹がゴロゴロと鳴った。試合前の緊張はわるいことじゃないさと健ちゃんはいう。けど、U16日本代表候補だった兄貴が緊張をほぐすためにクリスタル・ケイを聴くのと、相模原サルトFCの俺が試合会場のトイレを三往復するのとはわけがちがう。まあ、ゲームがはじまれば腹は落ちつくけど、プレーのほうはそうはいかない。
試合は最低だった。FWの俺はとにかくフルに走りまわって、DFを引きつけたり裏に抜けたりチャンスメイクに励んだんだけど、トラップもパスもへぼいもんで、相方の矢代が決めれるようなボールは出せない。シュートチャンスも三回あった。絶好の二回は天高くフカして、一回はキーパーの正面。ゲームは1―1のドロー。ウチの得点は矢代のPKだった。
最低。いつも通りだ。
試合終了と同時に、クソきれいな青空を茫然と見上げたら、「シンジーッ」と高い声がした。
連が来てる。
どう? 引きこまれねえ?
ぼくは引きこまれた。そして全3巻を2日で読み終えた。
……で、何だかすげえ、陸上がやりたくなった。今度生まれたら、ってあんまり好きな表現じゃないけど、陸上部に入りてえってマジで思った。
……っていうか、やっとけばよかったあああっ(>_<) って思った。
いや、じつは高校のとき、もしかしたら陸上部に入っていたかもしれないのだ。そんなちょっとしたきっかけがあった。そのことを、物語のある場面を読んで思い出した。
物語のはじめの方の、主人公のシンジが町で陸上部の顧問の三輪先生にばったり会うシーンだ。以下は、そのときの会話だ。
「おまえ、知ってるか?」
三輪先生は足を止めて、俺の顔を眺めた。
「下半身に強烈なバネがあって、球技が苦手なタイプは、スピード競技で大成するんだ。スプリントの王者になれるかもしれねえぞ。おまえがどの程度のサッカー選手だったのか、俺は知らんが……」
「ヘタクソです」
この先生の一言が後々までシンジにとってお守りのような言葉になるのだが、この場面を読んだとき、ぼくは一瞬だけ高校時代にタイムトリップした。じつはこれと同じようなことを、ぼくも高校のとき陸上部の顧問だった先生にいわれたことがあったのだ。
マジだ。
いい方はちょっとちがうけど(運動神経がいいのに球技が苦手なやつは陸上でのびる、みたいな感じだった)、マジでいわれた。1年のときの体育時間に。
で、陸上部に勧誘されたのだが、ぼくはことわった。高校に入ったら、部活には入らず、何かべつのことをしたかったのだ。で、友人の誘いで波乗りをはじめた。すげえおもしろかったし、後悔はしていないが、だけどこの「一瞬の風になれ」を読んで、ちょっとだけ高校で部活をやってみたかったな、と思った。
そんなふうに感じた本だった。
まあ、それだけじゃなく、あらゆる面でおもしろい本だから、みなさんも、ぜひ読んでみてほしい。陸上に興味あってもなくても、絶対におもしろいし、逆に陸上やってた人が読んでも納得できるくらいリアリティーもあるし。
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「しゃべれどもしゃべれども」と「サマータイム」。
ええ、もうそりゃ、どっちもオススメです。
前者が落語の話、後者が、夏の少年少女たちの話。
2冊読んで2冊とも、感動するなんて滅多にないことです。
この作家さんの持ち味は、「清々しさ」ですね~。
これほど雑味のない、しかもコクのある喉越しの良さは貴重です。
では3冊目は、道下森さま推薦のこの本を読んでみますね!
・・・し、しかし、全3巻なんですね(汗)