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魂の落書き 〜おでんまちのひ 店主の日記〜

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帝国ホテルの不思議 村松友視

世の中がどんなにくさりきってしまっても、本屋にいけば最高の友達に出逢えます。

こんにちは。今週も「道下森の本棚」の時間がやってきました~

さて、今日ご紹介する本はこちら。





村松友視著「帝国ホテルの不思議」だ。

いい本だった。

日本屈指の名門ホテル「帝国ホテル」で働くその道のプロ30人の仕事観が、357ページの本の中にぎっしりつまっていた。

ビジネス書としても読めるし、ノンフィクションとしても楽しめる、そんな本だ。

まずは、その30人のプロたちの名前とその職種、というかセクションをざっと挙げてみよう。


―帝国ホテルの顔という領域―

総支配人 
     定保英弥
総料理長 
     田中健一郎
客室課マネージャー 
     小池幸子


―ロビーという領域―

ドアマン 
     皆川孝則
ベルマン 
     二宮修平
フロント 
     八道慎一郎
スターター
     太刀川恵
ゲストリレーションズ
     渡部香里
ロビーマネージャー
     平久
デューティーマネージャー
     菅野和俊


―レストラン・バーという領域―

オールドインペリアルバー
     早津明人
インペリアルラウンジアクア
     勝又康治
ソムリエ 
     佐藤隆正
レセゾン 
     野尻誠
ルームサービス
     矢崎昌伸
ゴールデンライオン
     矢野康子
ランデブーバー・ラウンジ
     若松健次


―調理場・宴会場という領域―

氷彫刻  
     平田謙三
ベーカリー
     金林達郎
ブッチャー
     古澤忠
ペストリー
     中村杏子
神主
     永島勲
婚礼クラーク 
     細田晴江
宴会チーフ 
     佐藤正規


―内蔵される秘密兵器という領域―

シューシャイン
     キンチャン
プロトコール 
     金子孝
オペレーター 
     野尻三沙子
ランドリー  
     栗林房雄
施設部長 
     佐藤誠
施設・情報システム担当役員
     椎名行弥


何よりもまず感じたのは、この30人が30人とも、帝国ホテルの一員であることに誇りを持っていることだ。全員が帝国ホテルの社員ではなく、中には嘱託という形で携わっている者もいるが、その人たちもみな帝国ホテルの一員であることに誇りを感じ、喜びを感じ、幸せに思っている。

そして、その誇りや喜びが、そのままプロ意識となって、それぞれの仕事観をささえているのだ。

そんなメンバーの集まりが、「帝国ホテル」の偉大さをつくっているのか、「帝国ホテル」の偉大さのもとで、メンバーのプロ意識が培われていくのか。おそらく両方だろう。相乗効果となって、無限に大きくなっていく。それが帝国ホテルであり、帝国ホテルのメンバーなのだ。

料理一つをとっても、サービス一つをとっても、ただのホテルマンなら「これくらいで~」が許されても、自分はただのホテルマンではなく「帝国ホテル」のホテルマンなのだから……と考え、自分自身の仕事に妥協を許さない。

どのセクションからも、そんな仕事ぶりが漂う空間。それが「帝国ホテル」が「帝国ホテル」として君臨しつづけるゆえんなのだ。

ものすごく、うらやましいと思う。

いや、人の人生をうらやんでは駄目だ。駄目だと思うが、しかし思うけども、それでもうらやましい。読んでいて、自分もこんな組織のメンバーだったら、ちらっと考えてしまった。

それは今いる職場が、誇りを持つどころか、いやけが差すばかりの最低の場所だからで、そんな場所で必死こいてる自分にも、いやけが差していて……。

本当はこんなこと考えてはいけないのだけど、もしも、もしも、もしも自分の人生がもう一つあったら、帝国ホテルのメンバーとして、徹底的に自分の能力を高めてみたい。

この本を読んで、どうしてもそんなふうに考えてしまった。

現実的に無理だとわかってはいるが……



ところで、この30人の中に1人だけで本名を名乗っていない人がいる。

シューシャインの「キンチャン」だ。シューシャイン。そう靴磨きだ。

このキンチャン、21のときに九州から上京し、三信ビル内の「ウォーカー」という靴屋で靴磨きとして働きはじめた。1960年に、当時帝国ホテルの取締役だった犬丸一郎から、「日本一のホテルには日本一の靴磨きが必要」というセリフで口説かれ、以来50年にわたって帝国ホテルの靴磨きをつづけているプロ中のプロだ。

村松氏のインタビューの中で、「キンチャン」はこう語っている。


―ところで、このお仕事の醍醐味は何ですか?

キンチャン どう言うんでしょうか、靴が栄養をもらって蘇ると言うんでしょうか。愛情をもってシューシャインしたら、靴はかならずそれに応えてくれるんです。靴がそのよろこびを表現している手応えを感じているときの、磨く側のよろこびというのは、ちょっとたとえがたいものがあるんですよ。お客さまにも「おお、きれいになったな」とよろこんでいただけるわけですけど、我々はそれ以上のよろこびを得られるんです。靴がそうやってよろこびを表現する手応え……この仕事の醍醐味は、もうそれに尽きるって思いますね。



まさしくプロの言葉だと思う。

30人のプロたちのすべての言葉に感銘を受けたが、とりわけこのキンチャンの言葉には、胸を熱くさせられた。

自分も……と思わずにいられない。

自分ももっと誇りを持って生きたい、と。

誇りを持って生きて、自分をもっともっと高めて、そして、そんな言葉を発するにふさわしい仕事をしたい。

現実的に、今から帝国ホテルのメンバーになることは不可能だろう。だが、かれら30人と同じように、自分の仕事に誇りを持って生きることは可能だ。職場に対して愚痴をいう前に、まずは自分がかわればいい。自分がかわれば、確実に環境も変化していくものなのだ。

そして……

そして、いつか必ず、客の1人として帝国ホテルをおとずれよう。今は敷居が高いけど、自分を高めてふさわしい人間になって、いつか必ずおとずれよう。

そのときはもちろん、キンチャンに靴を磨いてもらうのだ。



今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。よかったら、今までに紹介した「道下森の本棚」も、ぜひご覧になってください。

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