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魂の落書き 〜おでんまちのひ 店主の日記〜

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鉄道員(ぽっぽや) 浅田次郎

世の中がどんなにくさりきってしまっても、本屋にいけば最高の友達に出逢えます。

こんにちは。「道下森の本棚」の時間がやってきました。

さて、今日ご紹介する本は、こちら。



浅田次郎著 「鉄道員(ぽっぽや)」だ。

「小説すばる」1995年11月号に掲載され、1997年、集英社より刊行された短編だ。第117回直木賞を受賞、また1999年、高倉健主演で映画化もされたので、ご存知の方も多いと思う。

何を今さら、という感じのチョイスだが、本の古い新しいにこだわらないのが、「道下森の本棚」だ。(新刊をご紹介するときもありますが)

さてさて、この「鉄道員(ぽっぽや)」、内容は、というと……

北海道の廃線を間近に控えたローカル線の駅長の物語だ。同時に定年を迎える彼に、ある日、奇跡が訪れる……

……といった感じだろうか。ちょっと説明不足だとは思うが、いわゆる「泣ける小説」だ。

「泣ける小説」というのは、ズバリ、泣けたか、泣けなかったか、がテーマに上るが、ぼくは泣けた。それも、かなり激しく。

えっ、こんなんで泣けたの? という人もいるかもしれない。実際、Amazonなどのレビューを見ても、評価はわかれている。

「泣けた」側の人間として、「泣けなかった」人たちを否定する気持ちはこれっぽっちもない。だから逆に「泣けなかった側」の人も、「泣けた」人を否定しないでほしい。

だが、えてして「泣けなかった」人は、「泣けた」人を低く見る。こういう図式が、世にはびこっている。

それはしかし、まちがいだと思う。

なぜなら本とは、物語と読者との掛け算でできているものだからだ。

たとえば、生まれたときから都会に暮らしていて、とくに旅に出かけたこともなく、職業も「職人気質」とは無縁のもので、そういう人がこの「鉄道員(ぽっぽや)」を読んでも、主人公に感情移入はできないかもしれない。妻と娘を亡くした男の人生を読まされても、お涙ちょうだいの雰囲気が、むしろ鼻につくこともあるだろう。

しかし、逆にそういう人でも、定年を間近に迎えた人なら、共感できるものがあるかもしれない。そうだよ、男の仕事とはそういうもので、人にはわからない苦しみがあるんだ、と、胸を熱くするかもしれない。また、家族を亡くした経験を持つ人も、主人公の気持ちがわかるだろう。

ぼくの場合は、北海道に住んだことがある、というのが大きいと思う。また、長い旅もしたし。炭鉱、ローカル線、廃線、というのは、北海道を物語る上で、欠かせないキーワードなのだ。

だから情景がありありと浮かんだし、定年までずっとポッポヤでありつづけた主人公にも感情移入できた。脇をかためる人たちもよかった。

その結果、「泣けた」のだ。

本とは、そういうものだと思う。



また、この世界観を書き切った浅田次郎氏の技量もすばらしいと思う。

おそらく、この小説を書くにあたって、徹底した取材をなされているだろう。まあ、物語作家というものは、どんなものを書くときも取材をするのだが、たいていこれだけの題材の取材をしたら、あれもこれもと書こうとしてしまいがちだ。そういう小説は、読んですぐにわかる。「あ、これ、このウンチクを書きたくて物語を自分本位に動かしてるな」という具合に。つまり、物語が語るのではなく、あるいは登場人物が話すのでもなく、作家本人がしゃべってしまっているのだ。言い方をかえると、小説を読んでいて、作者の姿が見えてしまう。

この「鉄道員(ぽっぽや)」には、それがなかった。

それは浅田次郎氏が、取材した内容を徹底的にかみ砕いて、物語の中に押しこめたからだ。作者が出しゃばらずに、ただ登場人物に命を吹きこむ作業に終始した。その結果、「鉄道員(ぽっぽや)」という、わずか40ページからなる名作が生まれたのだ。

今回、「道下森の本棚」で紹介するにあたって約10年ぶりに再読したのだが、やっぱり泣けた。

いや、単に「泣けた」こと以上に深いものが、この40ページの物語から受け取ることができた。

主人公の不器用な生き方、そう、読者は泣けても、この物語の主人公は「泣かなかった」のだ。

主人公、乙松はいった。


春になってポッポヤをやめたら、もう泣いてもよかんべか、と思った。


ポッポヤはどんなときだって涙のかわりに笛を吹き、げんこのかわりに旗を振り、大声でわめくかわりに、喚呼の裏声を絞らなければならなかった。ポッポヤの苦労とはそういうものだった。



みなさんも、ぜひ読んでみてほしい。



今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。よかったら、今までに紹介した「道下森の本棚」も、ぜひご覧になってください。

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