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魂の落書き 〜おでんまちのひ 店主の日記〜

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スローカーブを、もう一球 山際淳司

「道下森の本棚」 第3回は、

山際淳司著 『スローカーブを、もう1球』だ。

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この本は、高校2年のときに何気なく買ったものだ。

その当時のぼくは、どちらかといえばあまりまじめとはいえない少年で、勉強などとは遠い存在だった。脳みそに「活字」の存在などまったくなく、世間からは(親や、たいせつな仲間たちからさえ)、馬鹿だと思われていた。

そんなぼくが、本当に気まぐれで本屋に立ちより、この『スローカーブを、もう一球』を手にしたのだ。

結論からいうと、この本はぼくの人生を確実にかえた。

といっても、おおげさな意味ではない。この本を読み終えてから「活字」だけの本に興味を持つようになった、という程度の意味だ。

とはいえ、高校生といえば遊びたいさかりだから、友人との遊びの時間を削ってまで本を読むことに没頭したりはしなかった。1日に10分とか、1週間に2、3度とか、それくらいの頻度で本を読むようになったくらいだ。だが生活の中に読書というものが入りこんだのは、当時のぼく(周囲から馬鹿と思われていた少年)にとっては、大きな事件といえるだろう。

そのとき手にした本が、もっと堅苦しいものだったら……

ぼくはその後、本を読む機会をうしなっていたのではないか。
あるいはそれからさらに時が経ってから、本に興味を持つ機会が現れるのかもしれない。
だけど、高校生という、粋がってはいても純真な心を持つ時代に本を読むという貴重な体験はできなかっただろう。

だから、ぼくにとってこの『スローカーブを、もう一球』は、かなり思い入れが深い本なのだ。



さて、この『スローカーブを、もう一球』は、スポーツのノンフィクション物の代表作品だ。

……と、今ではそう紹介できる。
山際淳司氏といえは、そのジャンルの大家だし、今はその後につづいたスポーツライターが、さまざまなスポーツ物の本を世に出している。

だがこの本が発売された当時(1980年代半ば)は、そのようなジャンルが今ほど確立されていたわけではなかった(と記憶する?)。

山際淳司だって、この『スローカーブを、もう一球』で有名になったが(表題作ではなく、収録されている「江夏の21球」で)、ぼくがこの本を手にした時点では、少なくともぼくやぼくのまわりの人間は、ヤマギワ? 誰それ?
という感じだった(と記憶する?)。

で、肝心の本の中身だが、

以下の8篇が収録されている。

 八月のカクテル光線

 江夏の21球

 たった一人のオリンピック

 背番号94

 ザ・シティー・ボクサー

 ジムナジウムのスーパーマン

 スローカーブを、もう一球

 ポール・ヴォルター

どれも秀逸な物語だ。
そして何といっても、山際淳司の書き方が抜群にうまい。
通常、ノンフィクションライターが書く文章なりストーリーは、書き手の姿がその文面に強く出るものだ。今現在売れているノンフィクションのほとんどがそうだ。あるアスリートがいて、その人物像なり試合の情景なりを、書き手のフィルターをとおして表現される。
それはそれでおもしろいし、ある意味必要なことなのだが、山際淳司が書くストーリーは、ちょっとちがう。
すべてが物語なのだ。そこに書き手である山際淳司の気配はいっさいしない。登場人物としてのアスリートの動きが、一つの物語となるだけ。そんな書き方なのだ。

もちろん、当時のぼく(周囲から馬鹿と思われていた少年)に、そんなことがわかったわけではない。
当時のぼく(周囲から馬鹿と思われていた少年)が、この『スローカーブを、もう一球』に熱中したのは、たまたま収録されていた短編の中に、「その試合をテレビにかじりついて観た」というものが二編もあったからだ。

一つは、江夏の21球(=1979年11月4日 近鉄バファローズ対広島カープ)、

もう一つは、八月のカクテル光線(=1979年8月16日 簑島高校対星稜高校)

だ。

この二つの試合は、どちらも当時のぼく(このときは腕白ではあったが周囲から馬鹿とは思われていなかった)が、野球ってホントに面白い! と強く感じた試合だった。とくに八月のカクテル光線の簑島対星稜は、父方の田舎である石川県代表の星稜高校の試合ということもあって、マジで声をからして観戦した。

その試合が、文庫本のページに物語として表現されていたのだ。(それも、山際氏の美しい文体で)
もう熱中するしかなかった。

ああっ、あのときの試合かあっ! マジかよお、ハンパじゃねえぜ。ふんふん、へえ、選手たちはこんな心持であの試合をしてたのかあっ! 

こんな感じに。

そして、その体験は、ホントに心地よかった。

その後、ぼく(周囲から馬鹿と思われていた少年)は、なけなしのこづかいで適当な文庫本を買っては、暇な時間に読んだ。それは確実に自分の世界を広げる役に立ったはずだ。

それからの日々も、ぼくはあいかわらず人々から馬鹿だと思われながら生きてきた。だが「馬鹿」の種類が以前とはかわったものとなったのではないかと思う。

ただの馬鹿から、ただがつかない本物の馬鹿になったみたいな……?

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